4号線を下って-都をば
Giovanni
朝からずっと走り続けて
シングルのエンジンの振動に
飽き飽きしてしまった
4号線をとろとろ走り
気づけば白河にかかっていた
都をば霞とともに立ちしかど
秋風ぞ吹く白河の関
不真面目な文学部の僕でも
能因法師の歌くらい知っている
想像でこの歌を作ったこの人に
三途の向こうでいつか自慢してやろうと
白河の関へとハンドルを切った
どこまでも鬱蒼とした森を行く
その向こうに開けた景色の向こうに
古い石の遺構ばかりの
古びた関の跡が現れる
遠く離れたかった
忌まわしい街の空気にも
冷酷な女の綺麗な横顔にも
追従して愛想笑いする自分にも
日の傾き始めた午後3時
鳥の飛び交う空を見ていると
心が濾過されるような気がして
ひたすら国道を走った疲れが
吸い込まれていくような気がした
テーブルのたくさんある食堂で
一人食事をした
少し離れたテーブルで
中年の女性が
紙に何か楽しそうな顔して書いている
一人の少女が僕の席のすぐ近くに座って
じっとその女性を見ている
「何を作っているんですか?」
「あれは母なんです。ここの宣伝を作っているんです。」
少し困ったような顔で女性を見ながら
少女は
ガラス球を床に転がしたように
色白の顔を緩ませて
明るく笑った
1000年前の旅人も
疲れた体を引きずりながら
ふと立ち寄った店で
こんな笑顔に出会い
心安らかな思いを抱いたに違いない
そして たぶん
一層悲しく感じたに違いない
遠く離れてきてしまった
そう望んだのに
そうするべきだと思ったのに
悲しみは薄れる空の色のごと
深く心にしみわたり