地球が回り続ける原動力
ごまたれ3

実際、地球は本当によく回っていると思う。
朝日が差し込む部屋で歯を磨きながら
酔っ払って泣き続けた昨夜を思い出し、ふとそう思った。
床に転がった酒瓶に目を向ける。
中国出張帰りの同僚にいつか土産にもらったやたら度数の高い酒。
その空き瓶と今の喉と頭の痛さで昨晩の自分の行動が予想できた。

コロナが始まり、明確な情報がないまま在宅勤務に突入した。
親しい友人や同僚がいないし、
インドア派の自分には苦になるはずがなかった。
ぬるりと日々が過ぎていく。
ぼんやりと見ていたお笑い番組に対して笑ったつもりが
声がかすれて出なかったのが昨夜。
そんな自分に少し固まった。
心がもやついた。
もやつきは夜になっても離れなかった。
部屋に酒を置く習慣がなかったため、
しかたなく例の中国の酒瓶に手を出した。

涙がでた。
酒が飲み物とは思えない痛みで喉を通り抜ける。
さらに涙がでた。

わかっている。
今更だけど
「会わない」と「会えない」は違う。

今年はコロナだから帰省はできないと母に連絡したときも
電話越しの寂しそうな声をどこかに押し込んで見ないようにした。
毎日流れるコロナのニュースもどこか客観的に見ていたが、
自分の中の不安がむくりと起き上がりそうな瞬間にテレビを消した。

だってしょうがないじゃないか。
自分一人では何もできないんだから。
地球が回り続ける限り、
朝と夜を繰り返していつか終わることを願うしかない。

泣いた。
はっきりと形をもたないこの気持ちが
夜が更けるにつれて大きく膨らんでゆく。
泣き続けて痛みを堪えながら酒を喉に流し込んだ。

絶望的だった昨夜だって
地球が回るおかげで翌朝にはこうやって
朝日を見ながら歯を磨ける。
できることと言えば
地球が回り続けることを願い、敬意を払うことぐらいだろう。

たまに思うんだ。
地球が回り続けるのは人の力もあるのでは、と。
公転やら自転やら難しいこともあるだろうが納得がいかない。
だってこんな大きな星が世界中の夜と朝を迎えるために回り続けているんだ。
夜が来て安心した人もいるだろう。
朝が来て安心した人もいるはずだ。

例えば、だ。
世界中の人々の何かしらの足並みがそろった瞬間が原動力になるとしたら。

自分ならどうするだろう。

情報社会のこのご時世だからいろんな呼びかけが拡散し、
賛同や批判が飛び交うはずだ。
いや、「いいね」を集め始めるように趣旨が変わってしまうのだろう。

首をかしげて歯を磨き続けながらテレビに振り返った。
ニュースキャスターが笑顔で「おはようございます」と言った。
歯を磨く手が止まった。

これでいいじゃないか。

『「おはよう」と言う。』

地球が回り、夜をこえて朝を迎えて
人々が「おはよう」と言う。
小さくも世界中の人々からぽつりぽつりとあがるその声が原動力となる。

大それたことを願ってもいけない。
それでいい。
小さくても大きくても一人でも大勢でもいい。

地球が回る。
「おはよう」と言う。
わずかに足並みが揃い、地球がまわる原動力になる。

回せ。
回せ。

たくさんの不安と苦しみが終わるように。
「会えない」日々なんてなくなるように。

世界中の「おはよう」を集めて
暗くてつらいものを
押し込んで飲み込んで回り続けてくれ。


実際、地球は本当によく回っていると思う。

これからも回り続けると信じている。


自由詩 地球が回り続ける原動力 Copyright ごまたれ3 2021-02-08 00:08:00
notebook Home 戻る