カーネーション
妻咲邦香

剥いた蜜柑の爪跡が地球の裏側に勃っている
朝と見間違うかのような崩落
焔は零れる砂となり
紐を抱くとも数式の最後尾に綴じられる

消えそうな会釈で靴を脱ぐ
前室は輪郭に満たず、水没した鏡に肉の花弁
散る間際の叫び声のような、色

乾いて割れた蹄の音がこぞって迎えに来たようだ
旅の者にかけた情けが今また背後に忍び寄る
同じ道に見えたのだ
残した背骨が定理の鞍を替え
無事に星間物質になれますようにと、空の解剖図を開く
月の黙って帰る理由がわかった
艶を嫌って、さらに上にはもっと綺麗な装飾

勝手口を開け放つ
痩けた逆光に幼き老婆が蜜柑を頬張る
その頬の膨らみが押し曲げる軌道
今宵行きずりの流れ星
この部屋の梁を支える地軸へと招き入れるために

上空に踏切の音が鳴り響く
まだ薄化粧の雪原、白粉の煙は直下勃つも
無邪気さは何処までも透明なまま
古い裁縫箱がその韻を飲み込む
口の悪い幌馬車
叫び声とさらに、その色
素粒子は残らず肖像画に集まった
秒針に口紅を塗る
遮断機がゆっくりと降りる


自由詩 カーネーション Copyright 妻咲邦香 2021-02-06 23:42:26
notebook Home 戻る