Henaさんのチョコレート
草野大悟2

「ひとつだけ、たしかなことがある。たしかなことなど、どこにもない、ということだ」 Henaさんが、好物のチョコレートを囓りながら、珍しく確信に満ちた声で言う。
 武漢で、新型コロナウイルス(以下「コロナ」という)感染が世界で初めて確認された2019年11月22日のことだ。
 ジンルイが右往左往しているうちに、感染はまたたく間に世界中に拡大してしまった。
 日本のPCR検査数は、100万人当たり5.902人と、215の国・地域中158位の少なさ(昨年7月29日現在)。
 すなわち、検査数の少なさが感染者数を相対的に少なくみせているだけ、というのが実態であり、感染者数が少ないなどと勘違いしてはならない。
 なぜ検査を徹底しないのか、検査数データ公表の間が開くのか、甚だ疑問である(東京都は除く)。利権を貪っている連中にとって旨味がないからか、と勘ぐりたくもなる。
 
 私のごく身近に、居酒屋の経営者がいる。
 ここ、熊本でも県独自の緊急事態制限が発令され、1月18日からの営業時間が午後8時まで(酒類の提供は午後7時まで)とされた。これに従った店舗には、一日4万円)の協力金が支給される。
 複数店舗を経営し、従業員も多く抱えている中で、客数大幅減少、予約のキャンセルが相次ぐ。経営者としては、この施策にはとてもじゃないが納得できないはずだ。
 今、テイクアウトやネット販売、県全体の居酒屋と連携した割安チケットの販売などで急場を凌いではいるが、先の見通しが全く立たないとのことである。 

 ところで、46億年前に誕生したこの星には、カンブリア紀の生命大爆発により海中に多くの生物が生存するようになった。海から陸へと生物が上がってきたのはシルル紀、デボン紀で、植物や節足動物、両生類などが生まれた。その後、3度のスノーボール現象、海洋無酸素事変、ジュラ紀の隕石衝突などに見舞われて、地球生物は6億年に5回絶滅している。ジンルイが登場するのはわずか20万年前だ。その新参者が、あたかも地球を支配しているかのように勘違いして勝手放題していることに、宇宙(あるいは自然界)が激怒して、新型コロナウイルスを地球に送り込んだような気がしてならない。

 Henaさんが溶けて形を無くした跡のテーブルには、ゆるゆるの『ヘナチョコ』がひとつ、申し訳なさそうな顔をして佇んでいた。
「この『ヘナチョコ』ぐらいがちょうどいいんだよ、ジンルイなどという生物は」
 どこからか、Henaさんの声が聞こたような気がした。


自由詩 Henaさんのチョコレート Copyright 草野大悟2 2021-02-01 09:54:51
notebook Home 戻る