幽体離脱
妻咲邦香

貴方の影が優しい
正直に生きるしかなかった私を笑っているようで
噛み締めた唇から、消えかかる花の色が滴り落ちる

畦道、脱輪したワゴン
降りて様子を見ている貴方の背中がまだ大きい
無防備になるなら今
今、今だけ
振り向いたら全部消える

もうひとつの時間を此処に置いておくよ
ちょっと外の空気が吸いたいから
そう言って離れた私を、優しい背中が見送る
花は自らの美しさを知っているのだろうか?
禁煙してたよね?
バッグの底探っても出て来やしない
何も
何も、呟きさえも

剥がれた日々が優しい
火の見櫓の陰を踏まないように、軽く飛び越えた
眩しさのフェイクファー
電池の切れた魔法のスティック
振り向いたら全部消えた
走り去ったワゴン
いつの間にか、いつの間にか

今頃もう1人の私は幸せだろうか?
この私はどちらへ行ったらいい?
消えていくべきか?
空へ
空へ
あの大きい背中へ


自由詩 幽体離脱 Copyright 妻咲邦香 2021-01-29 21:31:04
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