Fish & Chips, and Beer
墨晶

 不思議な男でね。器量の悪い女に限って声をかけ、関係していくんだが、以降女たちは皆、美しく変貌していく。その果てに女たちは真の伴侶を見つけ、そこで男は速やかに身を引く。しかしその後も女たちともその夫たちとも普通に会っていた。ああほら、こないだ市会議員と結婚した三丁目の建具屋んとこの娘なんか、えーと・・まあ良いや。そして男はずっと独りだった。年中絨毯みたいな黒尽くめの服着て駱駝に乗って、毎日八百屋でキャベツを二玉買っていく。そう云や、ホームセンターで山ほど蛇口を買ってんのを俺の知り合いが見たって云ってたな。しかし結局、誰もあの男が何の仕事をしてるんだかわからなかった。まあ、そう云う奴だったわけよ。で、残されたのが一羽の鳥で、なんでも、アルビノのカラスなんだってよ。それが喋るって聞いたな。「メダマヤキ」って云うんだとさ。ところでアンタ、本当にオーブンに頭を突っ込んで死んでいたのがあの男だと思うかい? まさか。替え玉さ。すっかり頭が黒焦げだったんだろう? 誰だかわかりゃしない。生前あの男の顔を見た奴なんて一人もいないんだからな。
 
 


自由詩 Fish & Chips, and Beer Copyright 墨晶 2021-01-25 19:42:40
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