どうせなら酒色に溺れて
こたきひろし

どうせなら酒色に溺れて、あげくの果てに人生を棒に振ってみたかったな
そんなすくわれようのない生き方が痺れるくらいにかっこよく思えたからさ
その方が文学を志す者の一人としていい肥やしになるんじゃないかなんてとんでもない発想さえ持ってしまったんだからさ まったくどうかしてるよ

なのに飲料用アルコールは体質に合わなかったし 女に至っては箸にも棒にもかからなかった
我ながら笑わせてくれるぜ
何よりかにより 文学で 未来を切りひらけるくらいの文才なんてなかったんだからさ
どうにもこうにもならなかった訳よ
有名人の仲間入りなんて出来る筈ないし 後世に残る作家さんになれるような才能なんてかけらもなかった
のにさ
それなのに夢見る青年でいたかったんだよな

だけどさ 夢なんて腹の足しになんてならないからさ
就職して真面目に働いてその内に普通に結婚願望持ったから なりふりかまわず婚活したら
縁あって嫁さん貰えた
結婚ってほんとうに縁なんだよな

娘が二人産まれて育って家族になれた
四十代半ばには一戸建ても買ったよ
地獄のローン・レンジャーになってしまったけどさ

なのに五十代終わり頃によろけてさ
無類のギャンブル好きになってしまいすっかり溺れてしまった
知り合いにすすめられてほんの好奇心から始めたんだけどさ 最初に大当たりが出てさ  
それをきっかけに病みつきになっちまった

人生ってどこに落とし穴があるかわかんねぇよな
知らず知らずの内に落っこちまった訳よ
まったく笑えないよな

神のみこころも仏の教えも多少はかじった事のある俺だけどさ
そんなの何の歯止めにもならなかったな

人間の持ってる良心やモラルなんて 壊れたり失うとなったら
あっと言う間なんだぜ

泥沼に落ちた人間はそこが泥沼なんだってわからないもんだよ

だけどさ
俺だって底抜けの間抜けじゃなかったよ
家庭崩壊人生破滅の寸前で目が冷めたんだ

それから必死になって這い上がったのさ
昔の歌の文句じゃないけど
シアワセでないとココロが弾んで
手が叩けなくなるからよ



自由詩 どうせなら酒色に溺れて Copyright こたきひろし 2021-01-23 07:55:36
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