地下室へ下りる階段を
Lucy

 
                

冬の地下室へ下りていく軟らかい階段を
見つけられない影たちが
窓枠に囲まれた薄闇の奥にたむろするので

もうないはずの衝動に駆られ
割れて逆さまに地面に埋もれた水瓶の底や
脱ぎ捨てられた祭りの衣装が散乱する
廃墟のような裏道を
闇雲に走る

風はないのに
揺れる七夕飾りを下げたアーケード
どの店のシャッターも閉まっているのは
早朝だからか
そこがすでに終わった時代の街だからなのか

家電量販店のチラシが雑に折りたたまれて
壊れた自動扉の隙間に挟まっている
そこのわずかな出口から音楽が
建物の内から外へと
滲み出ている

躓かないように転ばないように
地面の凹凸を凝視しながら
急ぎ足で来た道を戻る
戻ろうと振り返る度に
見覚えのない背景が
芝居小屋の古びた大道具のように
次から次へと立ち上がるので
道に迷っているのだと気づく

はじめから覚えていないセリフを吐こうとするように
君は口を開け棒立ちになる


自由詩 地下室へ下りる階段を Copyright Lucy 2021-01-19 21:06:25
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