ふやけた心では
こたきひろし

新型感染症が蔓延している
らしい

昨夜遅く
父親と母親が交互にあらわれた
 何で一緒じゃないんだと怪訝に思ったが
何も聞かなかった

二人は入れ代わり立ち代わりあらわれたが
言葉は何も発しなかった

もしかしたらあっちにも感染症が蔓延しているのかも知れない

暗闇の中にぼんやりと浮かんだまま
いつの間にかきえてしまった

すると次には
初恋の女があらわれた
初恋の相手なのに名前も顔も思い出せなかった
思い出せないというより
顔も名前もなかったに違いない
所詮 初恋なんてそんなものなんだろう

驚いた事に女は着ていたものをするりと脱いで
真っ裸になった
そして俺の寝床に入ってきた

体温が感じられなくて冷たかった
女は耳元で囁いてきた
 あたしを自由にしていいわよ 遂げられなかった思いを充たしてね
甘く囁いてきた

なのに事が終わると不機嫌に言った
 下手くそ せっかく会いに来てあげたに満足させてくれないなんて
最中は演技だったのか 俺は訳がわからなくなった

なのに女は瞬く間に幽霊みたいに俺の寝床から姿をけした

邪悪な心だからそんな夢を見たのだろうか
ずっと心の深層にあった欲望と欲求のあらわれなのか

美しい絵画をナイフでズタズタに切り裂かれてしまったような自分がいた

俺みたいな男には最初から卑猥な落書きが似合ってる
そんな思いがわきあがった


何にしても
夢は覚めてはじめて夢と気づくものなんだよな

もしかしたら今生きている事自体
何者かが見ている夢の途中かも知れない

何かの本で読んだ事がある


自由詩 ふやけた心では Copyright こたきひろし 2021-01-18 06:49:32
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