五惑星物語
道草次郎

「炎の惑星」

炎暑で痙攣する夏空の真ん中
涼風吹き込む洞窟に
途方もなくでっかい入道雲が
安置されている
SはNのプラグマティックな個室で
SF小説を嘗めたりして
可愛い旧式のロケットに跨る
カレーっぽいお皿三枚
水道の水がまだ生温いうちに片付けて
滴ったすべての汗で出来た塊が
じつは海となるのではないか
という仮説を打ち立てる
あの燃え盛る太陽にだまされた
不具の海としての空
という幻想に向かって



「雑踏の惑星」

互いに殺戮し合う運命の
三葉虫が
脳漿を泳ぎまわっている
死はアドレナリンに包囲され
躍起になった小下垂体は
革命のような嘶きにドッキングする
無常なウインクや
骨抜きになった恋人
若輩者の生白いうなじなどが
一般道に溢れ返った
現代のシャンポリオンたちに解読され
一々
電子的に保存されていく



「遠雷の惑星」


突如
雨脚が速まると
レース・カーテンが
際どく風を孕み
小さな悲鳴が
都会の窓から盗まれる
宇宙が聖人の腋の下に隠れ
ウエートレスが
意味を運んでくる
縮退が始まり
風がやみ
ふっと




「塩の惑星」

饒舌の舌は
聖書から溢れ出した塩で
動かなくなる
ここは何処
死んだ魚ばかりがいるけれど
神経性の咳が
シリア人の喉から
マシンガンのように
漂泊する
薄暮
もしくは薄明
頭のない鳩の
羅列
犬のない脳の
ニューロン
風をうつ




「星雲の惑星」


そう呟いてXは
この旅程が
恐ろしく果てしないことを知る
カルタゴ
火星
シリウス
薔薇の狂った内部へと
真っ逆さま
にやけた南瓜と
世界が接吻するあまたの妖しい世界と
交接しながら
嗤って
馬頭星雲の
切っ先で
意味のある握手をしたりして



  


自由詩 五惑星物語 Copyright 道草次郎 2021-01-09 13:42:40
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