哀愁の強行軍
ただのみきや

予想図

わたしの人生の尺に
息子の人生の尺はまだ収まっている
わたしの息子への関心は非常に大きく
息子のわたしへの関心はそれほどでもない
じきに息子の人生はわたしの尺からはみ出して
淡々と 坦々と 列車がホームを出るように
わたしの知らない時代へと行くのだろう
なにも持たせてやれないだろう
酒の席の笑い話では 時折
記憶から引っ張り出されることだろう





輪郭迷路

面差しの四つ角に焼け焦げた星
結露した硝子窓 苦笑する薔薇
切り傷のような言葉を口移しに
 遠ざかってゆく
冷たい窓の反射
真白なオレンジの破裂

沈黙を頬張って
夢みがちに線を描く爪先
 刺す虫のように反り返る
光の錐 振る鈴の眩さ
凍った脳に亀裂が走る
 歌うような黒曜石の魚たち

言葉の灰と紙魚の死骸に埋もれた
眠らない眼がなにも見ていないように
誰かの夢を夢見ている孤独は
 擬態したまま熱を失くしてゆく
朝明けにさまよう錯視の果て
 自らの燃え滓を河に流しながら

病について語り合う
貝殻の中のコスモポリタン
長い睫毛はみな喪に服し
感覚を炙ることで
 魂の処女性を取り戻そうとする
言葉と自我の剥離を模索して

思考のバグが増加して
 嘔吐するスペースを奪い合う
一から自慰を学び直すように
弾き飛ばされて暗い隕石となるまで
心臓からひとつの刃物が発芽するまで
か細い指先が無意識になぞる輪郭

降り積もる顔
壊れた石の指 錘のない時間
ナイフでこじ開けたノートの
死蝋化した詩
耳朶を咥える煙の囁き
トンネルの向こうに見る一点の錯乱





あいもかわらず

一羽の鳥が雪の上で死んだように
ひとつの年が終わり
新たな鳥を空に見上げることもなく
ただ目を反らして迎えた新しい年

不安だから知りたがる
苛立つから論じたがる
断罪の的を見つけたがる
答を出したがる解決しないのに

途切れなく果てしない流れの
手には負えないうねりの中で
上手く泳げなくても溺れはせずに
文句が言えるなら息もある

死んだ鳥の喪に服する
翼の折れた鳥を介抱する
生き方に正解はないが
ただ眺めわたしはただ目を閉じる
      



                  《2021年1月3日》










自由詩 哀愁の強行軍 Copyright ただのみきや 2021-01-03 12:45:07
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