理由
後期

理由

家族らしい人がとりすがって
泣く理由を探している
ぼくに家族が居たかどうか
薄れ始めた記憶には術は無いのだが
爪の長い指が業者のように
内臓を捌きながら あゝ
この胃袋には
アタシの幾多の
愛情が注ぎ込まれたのよズズム!
と、笑い声をあげて泣くことに失敗している
そうだね!カーさん!ボクは
この胸に何度も何度もブチ当たっては
叩きのめされたのさ!
それなのに、あんなに分厚かった壁が
骨と皮だなんて可笑しすぎるだろう!
と、憚ることなく爆笑している
お弔いは明るいにこしたことはないが
泣いてあげないと、この子に申し訳がたたないよ
さあ、みんな泣いておやり!
ボッキリと
内臓感覚でも分かる皺々の両手が
肋骨を折り捌いている
白菜の漬け物のように
ギュッと心臓を絞ってゆくのが
ブチブチ骨伝導でよーく分かる
ヨシ子さん!
この子の心は、此所にあるのかい?
いや、オカーサン
やはり脳天じゃございませんの?
納屋にノコがございましたわ
ほーら、いつもこうだ!
どうせボクがひく羽目になるんだろうから、絶対に嫌!
バカだね!そんな筈はないじゃ無いか
白々とした一瞬の魔が緞帳のように
ネズミに降ろされると、観衆のけたたましい笑い声が、腹の底にも伝わった
だって、
知らない人じゃ泣けないよ
それもそうね
見ず知らずのお方では、成功する
事は稀らしいね
そうなんですか?
テレビで坊さんが言っていた
あの偉い坊さんか!
なら間違いはありませんね!
でも、
ボクらは、笑うことには
成功したって事でしょう?
そうね!そういう事よね!
ボクちゃんって!
モーッ
偉いわ!


家族らしくない人がとりすがって
笑う理由を探しあてている。


自由詩 理由 Copyright 後期 2020-12-17 00:26:37
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