生きている工場
ベンジャミン

夜、下町の小さなアパートで
卓上電灯の明かりを頼りに母と子は
おもちゃのロボットにシールを貼る
内職をする

一つ貼り終わるたび、子は
十銭、二十銭と数えながら
一円になるたびに正の字を増やしてゆく
白いプラスチックの翼に
色鮮やかなシールが貼られると
子は嬉しそうに
それを飛ばしてみせる
母は優しくそれを諭してロボットは
ダンボールの中に積まれてゆく

十円、二十円と数えながら、子は
正の字二個をまるで囲み、母は
そのまるをおでんの卵と
言って笑う

百円になって
いっぱいになったダンボールが
いくつもできあがると、母は
子の手を取って外へ出る
オレンジ色のちょうちんに
吸い寄せられるように、子は
卵を指さして十円と言い、母は
恥ずかしそうに
それをくださいと言う

夜、下町の小さなアパートで
卓上電灯の明かりを頼りに母と子は
おもちゃのロボットに囲まれて

温かいおでんの卵を仲良く食べる

    


自由詩 生きている工場 Copyright ベンジャミン 2005-04-18 23:33:09
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