バイト帰りの国道一号
haniwa

午前三時の一号線を原チャリで走っている
気分はイルカの群れのなかに迷い込んだ小さなクラゲ
あるいはタンカーの間で右往左往する小さなタグボート
とにかく僕は泳いでいて、流れる街灯は揺れる灯台のように頼りない

ある日図書館で詩を読んだ
「夜に働くヒトよ」という呼びかけが印象的な詩だった
細部は忘れてしまったけれども、真夜中の国道一号線で
トラックに囲まれる僕はしばしばその詩の断片を肌で感じ取る
「夜に働くヒトよ」

そんなときに僕は旅の歌をうたう
この道路は東京都中央区の日本橋と大阪の梅田新道交差点を横浜・静岡・名古屋・四日市・京都などを経由して結んでいる
シールド付きのジェッペルのなかで
僕の声は響かずに消え
十六輪トレーラに踏みつぶされる
右にあるのは僕の体がそのまますっぽり入りそうなくらいに巨大な回転するタイヤ
左にあるのは排気ガスで黒く汚れたガードレール
僕にとっては家とバイト先を繋ぐだけの道
けれども僕は世界がそれで終わりじゃないことを願う
僕の向かう狭苦しい部屋がただ旅の途中で立ち寄っただけの安宿であることを願う
巨大すぎる車を自由自在に操って、彼らが世界中を旅するような気持ちでいることを願う
彼らも歌を口ずさんでいることを願う

僕の知っている旅の歌が尽きかけるころ
原チャリは荒い息をつきながら駐輪場にすべりこむ
そして僕はヘルメットを脱いで部屋にあがり
タバコを一本吸う
窓の外、遥か遠くに通り過ぎる車の音が聞こえる
彼らがどこに行くのか僕は知らない
あの道路は東京都中央区の日本橋と大阪の梅田新道交差点を横浜・静岡・名古屋・四日市・京都などを経由して結んでいる
そして、そこから先も無数の道が世界中を銀河のように走りまわっているのだ


自由詩 バイト帰りの国道一号 Copyright haniwa 2005-04-18 03:56:33
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