電気痙攣療法
板谷みきょう

自殺念慮
自殺企図のある患者には
効果があるんだ

薬物治療より
電気痙攣療法を好んでた
老医師は
第二次世界大戦中に
ロシアに軍医として渡り
襲ってきた露助の右眼窩を
軍刀で突き刺したことを
誇らしげに口にしていた

七十を過ぎた辺りから
前立腺の具合が悪いと
自分で導尿し
留置バックを下げて
回診をしていた

その頃ボクは
ウケないM・Cと歌で
芽が出る機会も無く
ススキノでくすぶっていた

売れない喰えない
それで
月の半分を病院で働く
暮らしをしていた

1mの電源コードを切って
タイマーを接続し配線の先に
円形の銅板を繋いだ
自作の通電装置と
生理食塩水と粘着テープ
睡眠薬を鞄に隠し持って

生きていくのが辛くなって
どうにもならなかった時には
こめかみに銅板を貼り付けて
タイマーをセットして睡眠薬を
多めに服んで
いつでも
通電自殺ができるようにしていた

時には、こめかみに
銅板を当てて夢想もした

考えてみたら
希死念慮や自殺企図を
防止する治療器具を用いて
死のうと考えていたんだ


自由詩 電気痙攣療法 Copyright 板谷みきょう 2020-11-13 14:01:41
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