霧吹きに仙人掌
犬飼敬

飲みさしの雪遠ければ巡らないまま日々同じ鉢植えに注す

隙間風はだかはだか二つ並べ(なべ)電気毛布を蹴り落としたり

地ビールの缶に汲んだ湯を捨てる 神経麻痺のリハビリをする

詐欺罪につき潜水艇の番 日当たりの良いところを探す

マキロンも買い換える間も包帯もないままここにシングルベッド

幸運のインフレーション対策は目下懸案中として次

血の通う遺体はさほど珍しくないらしい 卵焼きの黄色

捨てる神すら知らぬ初恋の香りはきっとライトメンソール

減る階段 カツラのバッハの肖像 成仏できない彼女のソナタ

嘘つきと言う嘘つきのいた春が 鍵のかかった屋上ならば

鬼(ほどはうるさくなくもない友)の居ぬ間のぬるいビールと明日

仙人掌と水を与える霧吹きの暮らしを十二年していました

初出
時計/さす  2019/4/13 #章陣版深夜の60分一本勝負
小旅行/毛布 2019/4/20 #章陣版深夜の60分一本勝負
シングルベッド 2019/7/13 #章陣版深夜の60分一本勝負


短歌 霧吹きに仙人掌 Copyright 犬飼敬 2020-11-11 20:02:00
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