リバイバル
直治

泣き濡れて小さな光よこされている
不眠症、くすんだ心がひとつある
泣きじゃくるひとり閉じ籠ったままの空
さみしいうたかきあつめて夜明けの友とする
泣くだけは泣いて心ふやけるままに
捨て柿のような心しまわれてある
少し冷えた足に毛布かけやる我が身さみしさ
白状したいすべてが夜明け前の空
さみしさが流木となって一睡もできず夜明けだ
夜明けの涼しさに人がいない道路
氷のような鈍重さでしずけさにおる
みんな遠くなる夜明け前のしじまに
胸にやぶれた手紙いちまい
涙もでないうすい瞼で詩をかいている
まだ夜は明けない寝床さみしい足のぞかせる
翔べない足が二本ある
もてあます両手が小さき枕抱いている
泣けない瞼がふたつもあって夜明け前
泣かせてやれない小さな童子うずくまるわが底
泣きたい心がぐしゃぐしゃになって夜明け前の氷層
弱い弱い弱いじぶんの輪郭はっきりとある
ねむれよねむれ我が手わが子を抱くごと
うすい手首切ったような雨が濁る
白日のたもとに泣いた心奥へ押しやる
すがるものがない青い静寂につめたい夜明
育ちすぎたなんて小さい私だ
泣いてる瞼閉じるうすいひかり
さみしさが鼓膜はりついて逃げれない夜だ
頬濡れて生きるつたなさ噛みしめている
よそから灯りが洩れてさみしい家路
泣いてる子を黙らせて白日生きようとする
眠れない夜の傷口たしかめている
わびしい胸抱いてまたも眠れない
さみしがりやをこの胸に飼い日夜明けている
窓にうつる不格好な私でこれしかない
ぬるい珈琲と少し歩いて瞼重くなる
ちぎれた雲のすき間になんべんも光さす
歩くごと瞼に水がたるんで帰ることにした
窓の灯りに昨日がまだ残っている
ひとときの雨にずぶ濡れの格好で居る
帰り去る人たちばかりで誰も声がない
はやばやと家路に就いて小さな淋しさが淀む
軋る心を抑えつけ喫茶店明るい顔している
ショッピングモールの涼しい喧騒にひとり
拾われて帰るしかないバスの無言
ひとりの夜が秋深くなりゆく
夕焼けに何者でもない私が横切る
折れた心に幾度となく夕陽がくらむ
ぬるい缶珈琲携えて夕陽に汗かいてる
少しひろい道の放たれた陽に灼かれる
さみしさ持ち帰るコンビニ袋がさつく
傷口ゆっくり冷えていく朝の時間
また泣きそうになる心ひとしずく
胸にしこりがあって流れない今日
ひょいとした淋しさに拾われて黙って帰る
癒えない傷のいつまでこの波続くことか
久々の酒に泣きも笑いもある
消えかけた淋しさ胸に浮き上がるこんな酒
酒に心動かされてなんてさみしい
出口ひとつしかない遠い灯り
少しの酒に酔ってしまい淋しさ火照らせる
流れ去る街をからっぽの目で見ている
呑んで呑まれて癒えない傷だ 


俳句 リバイバル Copyright 直治 2020-10-31 23:00:09
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