秋の童
道草次郎

職業訓練に向かう車中
手嶌葵の『明日への手紙』を聴きていると
ふっと秋の童が降りてきた
きゃっきゃと笑いながら
ダッシュボードをはしゃいで走っていた

ぼくは
しずかに考えながら
考えられる倖せに
ふわりと浮かんだままだった

景色へ世界で一番控えめな秋波を送る
するとまた一段
秋が素朴な階段を下りたことをしる

色付いたモミジは
鼻腔のおくで
素直に飲みこまれるのを待つようだった

出がけに保険で飲んだ安い風邪薬の効用が
ちょうど現れてきた頃合いだったろうか

ひと匙のさらりとした
こうした時間
喉のつかえのとれた気のする
こういうひと時

そういうもののために
人は荒地を徘徊しているのかもしれない
そんな考えが心をみたしても
こころは暫くそれをうべなっていてくれた

秋の童はもうみえないけれど
その代わりに太陽が顔を照らす
山のむこうに
一筋のまっすぐな煙が昇っていくのがみえた


自由詩 秋の童 Copyright 道草次郎 2020-10-20 09:05:56
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