我らの言語はいつも爆発している
につき

たとえば
並び歩く二人が
気を置かずに話している
一方が振り向くとき
他方も同時に振り向いている

たとえば
双子が同じ夢を見る
電話でその話をするとき
互いの脳裏にはありありと
同じ景色が描かれている

たとえば
突然の雷鳴が轟く
走行中の
列車の車窓を震わせる
乗客が一様に首を竦めるとき
彼らはまったく一つである

言葉がいらないとき
互いが同期しているとき
言葉は忘れられている
けれど
幼いころよりずっと
誰と過ごしてもいつも
何処にいても何故か
忘れはしなかったことがある

たとえば
秋空は晴れている
どこかで
金木犀が咲いている
香りは爽やかに空へ
ひとりきりが嬉しいこと

たとえば
昼下がりの光りに
形見の茶箪笥の
黒檀は艶めき
沈黙のまま微笑むこと
失われないこころの物語

たとえば
冬が近くなり
ハナミズキが赤い実をつけても
なお大きな柘植が
真緑のままの葉でいること
まるで岸壁の松のように

言葉は霧のように立ちこめる
五里霧中のまま
我らは彷徨っている
邂逅した誰かへと
問いを投げても
誰ひとり応える者はなく

だから
伝えたいことは言葉ではなくて
その奥にあるもの
姿なく
形のないことを
伝えようとするとき
言葉に最初の火が灯る
小さく
或いは
思いもかけずに大きく
我らの言語はいつも爆発している


自由詩 我らの言語はいつも爆発している Copyright につき 2020-10-18 15:01:12
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