宝焼酎
草野大悟2
こるが一番うまか
そう言ってオヤジは
宝焼酎のお湯割りを飲んでいた
焼酎九、お湯一
ほとんど宝なその飲み物を
旨そうに、グビッ、と飲むオヤジの顔は
幸せそのものだった
おれは それを眺めながら
こんなエチルアルコールみたいな
どうしようもない酒をよく飲めるな
そう心から侮蔑していた
洋一郎
ある日オヤジが言った
洋一郎、こらぁ、お湯で割っと甘もうなって旨かっぞ
おれは オヤジの言葉を聞き流して
高い酒ばかり飲んでうんちくをたれていた
高いことは旨いこと、そう思っていた
そんなおれをオヤジは不思議な生き物を見るようにながめ
いつも必ずおれが飲んでいる酒を一口だけ飲んで言った
やっぱ 宝のお湯割りが一番旨か
オヤジの顔には確信が貼り付いていた
二○一三年一月一七日
オヤジは死んだ
八七歳六ヶ月の大往生だった
オヤジはいつも
おれは、絶対、人工呼吸器なんかで生かされたくはない
洋一郎、余計な延命は絶対するな
よかか、分かったか
おれは、コロッと死にたい
焼酎飲んで眠るように死にたい
長ごう生きすぎたバイ
宝を飲みながら繰り返しそう言っていた
その言葉どおり
去年の正月、歩けなくなって入院した病院で
入院の次の日
眠ったように死んだ
宝焼酎を飲んで
眠っているような死に顔だった