沢蟹の脱出
もちはる

風渡るせせらぎ
岩の割れ目から這い出て
木陰を気ままに歩く
わたしは沢蟹

のびる手

捕えられ
器に入れられ
なかまとどこかへ連れられ
いつしか明るい照明の下
隠れることができない

となりには
もう動かないなかまが
おいしい唐揚げ と
値を付けられて
このままでは
食べられてしまう

泡を吹き 足掻いても
ハサミを振りかざしても
小さな威嚇は
強い者には
負けてしまう
逃げよう

棚からするりと下り
長靴の側をそっと通り
店の隅を必死で
透き間に逃げ込むと
つながる朱い列
谷川は遠い


自由詩 沢蟹の脱出 Copyright もちはる 2020-09-21 09:46:31
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