黎明
須藤 あさひ

置き去りにしてきたはずの亡霊が
扉の向こうで慟哭する
割れてしまった心の破片が
拒絶するみたいに散らかる部屋で

正しく狂っている
あるはずのない安寧に
届くはずのない静穏に
私は触れて、見て、そして

白昼夢のようなまどろみの中で
ただ 思い出したように息をして
体温のような うねるような
流れの中を泳いでいった
あてどもなく
あてどもなく

踏み出した先がどこであろうとよかった
やわらかく美しく鮮やかな
色彩を失わずにいられたなら


そうしてあなたは見つけた
そうしてわたしを見つけた
泥濘の底から還る
ふたりは彷徨う間もなくたどり着く


正しく狂っている
あなたの心音が優しい
泣けてしまうくらいあたたかな手のひらを
終わりの果てでも見つけられるように


ほら もうじき夜が明ける


自由詩 黎明 Copyright 須藤 あさひ 2020-09-14 23:09:31
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