黎明
須藤 あさひ
置き去りにしてきたはずの亡霊が
扉の向こうで慟哭する
割れてしまった心の破片が
拒絶するみたいに散らかる部屋で
正しく狂っている
あるはずのない安寧に
届くはずのない静穏に
私は触れて、見て、そして
白昼夢のようなまどろみの中で
ただ 思い出したように息をして
体温のような うねるような
流れの中を泳いでいった
あてどもなく
あてどもなく
踏み出した先がどこであろうとよかった
やわらかく美しく鮮やかな
色彩を失わずにいられたなら
そうしてあなたは見つけた
そうしてわたしを見つけた
泥濘の底から還る
ふたりは彷徨う間もなくたどり着く
正しく狂っている
あなたの心音が優しい
泣けてしまうくらいあたたかな手のひらを
終わりの果てでも見つけられるように
ほら もうじき夜が明ける