お金が無いのは何も無いに等しい
こたきひろし

家の財布からお金が出払ってしまった

家を買ったら
すっかりお金に余裕が無くなってしまったのだ

なのに嫁さんは家計簿つけてなかった
俺はそれなりに稼いでいたけれど
嫁さんは事情があって働けなかった

なのに嫁さんは家を欲しいと言い出した
それ以前にも彼女は色んな物を欲しがった
アパートであんたの帰りをひたすら待っている私の身にもなってよ
寂しいの
この寂しさを埋めたいの

私は私と結婚してくれたそれだけで
嫁さんに何も逆らえなかった

十歳下の彼女は婚期の遅れた
風采の上がらない私には女神だった

側にいてくれるだけで良かった
何よりもセックスをふんだんに提供してくれた

それまではずっと性にうえていたのだ
女にうえていたのだ

それまでの私の人生の羅針盤も
大切にしてきた磁石もすっかり狂い出してしまったのだ

私は私の遺伝子の受け入れ先を見つけたのだ
子供を妻はお腹に宿してくれた
そして産んでくれた

そうなると彼女は私の絶対的な存在に拍車がかかった
私は私の妻の欲しがる物を何でも買ってあげたい気分になりました
でもそれには無理がありすぎる

そして彼女はついに家を買って欲しいと物件を探してきた
まだ幼い娘を連れて不動産を見てきた

それを言いなりに受け入れた私もどうかしていた
臆病で優柔不断な筈だった自分が
人生の大きな大きな買い物を
してしまったのだ

家族を幸せにするために
幸せにしてあげたいために

とは言っても

時間の経過のなかでいつのまにか麻薬は切れだしていた
だから
真実はなかみの薄い
張りぼてみたいな幸せなんだと気づき始めながらも
そこにはもはや
後戻りできない自分がいたんだ

経済の破綻は火を見るより明らかだったのに
人生一回だけだから
もうやり直せない

諦念にそそのかされながら


自由詩 お金が無いのは何も無いに等しい Copyright こたきひろし 2020-08-22 07:59:42
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