他者への手紙
道草次郎

与えてそして奪った
傷だらけだよ
もう
もうだめだよ
でも
あなたの方が
苦しいんだ
そうなんだよ
あなたの張りつめた姿
そのまつ毛
見てられないよ

ぼくは単純で
おまけに馬鹿だ
たしかに認めるよ

自己紹介だ
思えば
全ての歌は自己紹介かも
少し黙って
そう
ぼくは
ニーチェの哲学は知らない
でも
ニーチェが
馬を庇って泣いたと知って
彼のことを
吐き気がする程
蹴っ飛ばしたくなった
それだけ
撃ち抜かれたわけ
べつに
ニーチェじゃなくてもいいんだ
そこらへんの誰かが
馬を庇って泣いてたら
ぼくはその誰かを讃えるかも
ぼくはそういう
単純な馬鹿だ
そして
みんな
単純な馬鹿でなきゃ
ほんものじゃないと
そんなことを
時々
かんがえる
考えて
かんがえて
あんまり
考えすぎて
低圧剤を
2錠飲む
割に合わないを
絵に描いたような
男だ

そう
昼間のぼくは
労働者
はたから見たら
働く人
そんなふうに
ほんとうに
見られてて
まるで
コンビニのおにぎりみたいに
ありふれて見えるなら
ほんとうに
それは驚くべきこと
涙が出るぐらい
嬉しいこと
何故って
ぼくがみる
ぼくとばかり毎日つきあって
もはや
ぼくはぼくならぬぼくに
憧れているから
しかしそんなぼくにも
ぼくは傷ついてしまう
そんな
ぼくにぼくは
ホトホト呆れて
それでも
ぼくの度し難さについて
また考える
この
ぼくが

けっきょくのところ
ぼくにはぼくしかなくて
ぼくはぼくとの距離の
とり方を
一生をかけて勉強していくのか
それが生きるって
ことかしら
それが人間て
ものかしら
なんてひとりごとを言ったり

ああ
ここにいたって
初めて思う
ぼくでない
ぼくの入子構造の外にある
「あなた」

ぼくは
逢ってみたいと







自由詩 他者への手紙 Copyright 道草次郎 2020-07-29 20:25:33
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