しずく指す先
木立 悟





見えないものが膝の上に居て
明けてゆく空をみつめている
むらさきの径 つじつまあわせ
陽を呼ぶ声 目をふせる声


指のすぐ上を廻りつづける輪
まばたきすると赤くにじむ輪
遠くを巡る星の輪もまた
指の動きのかたちを描く


話しかけてくる水に
応えてはいけないと思っていた
径をあける草にも
服に触れる闇にも


雨に追われ
追い抜かれる日々
何かから隔てられた
静かな朝


機械の力で世界を観て
小さなひとつを視ることがない
息苦しい涼しさのなか
手のひらの重さを思い出す


川に紛れる 水に似たもの
流れの傍らをふと振り返り
微笑みながら遠くへゆく
影の多い径の午後


降り来る何かに気付かぬまま
ただ手の甲を濡らし歩いている
網が網を覆う空
風と支流 静かな暮れ


重なる光の高さから
唱を引いた広さまで
罠を巡らす白い蜘蛛
見えないものの震えを聴く


けだものが研ぎ忘れた爪のはざまに
いつのまにか海はひろがり
光の板の還る場所
樹の上の家を指し示す


















自由詩 しずく指す先 Copyright 木立 悟 2020-07-24 19:32:10
notebook Home 戻る  過去 未来