ブナ林にて
山人

林床にはブナ林特有の雑木が生え
そこを刈り払い機で刈っていく
すさまじいヒグラシの鳴き声の海が森を埋め尽くし
私たちの耳に、錐もみ状に刺さっていく

急な斜面を足場を作りながら雑木を刈る
不安定な姿勢で木を刈るには、呼吸を止めたり
うぐっ、と呻いたり、荒い息と、とめどない汗と
頼りない臓器と折り合いをつけて仕事をする

後方を振り返るとそこに道ができている
ザックから水筒の水をむさぼり飲めば
いくぶんヒグラシの声は和らいでいた

午後三時に標高は八〇〇を超え
上司の一声で乳白色の霧が漂う雑木の中で休んだ
彼とは一〇年来の関係だが、特に変わり映えなど無く
互いに引き合うものもなく
昨日はただ、二人だけで仕事をしていたのだった

いつもに増して饒舌な彼は
くだらない話題を口にし
それに呼応しながら
私もつまらなすぎる人生を嗤った

霧は深くなり、やがて小雨から本降りの雨となった
急傾斜地の刈り上げた道をふたたび下ってゆく

午後からおろしたスパイク長靴は
とても良く土に食いついた
やがて雨はズボンのすそを通り
長靴の中まで侵入したころ
私たちは車のところに着いたのだった




自由詩 ブナ林にて Copyright 山人 2020-07-24 10:59:06
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