Fuck the Facts
ホロウ・シカエルボク


土の中に溺れた
午前三時の記憶は
白い朝に焼かれて
跡形もなくなる
海沿いの埃
引き潮にさらわれ
光の
届かないところに…

海獣のボーン
砂を撫ぜ
小さなアンサンブル
音のない鎮魂

ただ生存が
あちらこちらに
無造作に転がるだけなら
なんて暴力的な世界

動き始める街路は
遊びの過ぎる時計の仕掛みたいで
回り続けるか動かなくなるか
そのふたつしか選択肢がない
幾つかのブロックと
幾つかの通りだけで
住人たちは途方もない時を生きる

確信のほとんどは無知からくるものだ

通り過ぎる
鮮やかな影
目を伏せて
コンタクトは避けた
愚かな風はなにもかも巻き込もうとする
時間を無駄にしないためにも
ここに意味を持たせてはならない

カフェは規律的な豚舎だ
木の樋やわら草の代わりに
機能的な椅子とテーブルがある
腰を下ろした彼らが鼻を鳴らす前に
なにもかもを済ませるコツを店員は心得てる
許される場所だけで
横柄に過ごせるなんて不憫だね
空っぽの自意識に
渡せる尊敬なんかないよ

湯気を立てるカップが
「まぁまぁ」と笑いかける

置き去りの命は
置き去りの声は
置き去りの本は
置き去りの転寝は

デジタルの冷めたアラームとともにどこへ向かうのだろう
予め延命装置に繋がれた
白い血の生きものたちは
なにもかもを安心に預けることで
ささやかな日々以外のすべてを失くしてしまった
喪失
喪失
喪失
喪失
カレンダーにひとつずつ増えていく×の字は
微かな声でそう囁いているみたいだ

やたらと真実を誇張するのは、そうでしょ?
のべつまくなしに喋り倒すこと以外に
あなたにはどんな術もありはしないから…

古い詩集を読みながら
コメディを見てるみたいに笑った
変っていくものにそのまま手を引かれる真理なんて
言い訳を聞く前から全部分かってる

守ってくれる規則や
勘違いさせてくれるエンジンの唸りや
築いてきたというだけの歴史や
麻痺という名の成長の証
そんなものがなければまるで声なんか出せないのさ

もしも、そう
ぼくがいつか解剖室に回されたとしたら
皮膚を切り裂いたときに溢れ出るものは
担当の医師たちを驚かせるだろう
オリジナルってつまりそういうこと
ひとことふたことでどうにかしようなんて
考えがちょっと甘過ぎるんじゃない?

夕食を探して彷徨うんだ
やるべきことのために生きてる
脳味噌ってわりと
どうにでもなるものさ
スマホの画面と同じで
なにもかもいっぺんに開けるのは骨が折れるけどね
もう一度知らないところから始める
同じことのために
指先を動かすなんて絶対に御免だね




自由詩 Fuck the Facts Copyright ホロウ・シカエルボク 2020-07-16 15:44:32
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