メモ
はるな


ここの部屋の、窓からはマンションがたくさんみえる。いくつもの長方形が、かさなる長方形が、夜になれば灯る長方形が。空はすこしみえる。直線で区切られたいびつな図形として。
ニュース、書いては消し、裏返ったり跳ねたりする意識、たとえば娘にこれをどう説明する?ってことを、考えては消し。
わたしは16歳ごろに決めた、人や、人のものを傷つけてはいけないし、わたしは絶対に傷つかないということ、けれどもそれはわたしが決めたわたしの世界であった。誰かのためにつくられた世界なんてないし、あったとしても嘘だ。(そして嘘の世界はそこかしこに存在する)。
「この」世界のことを、どう説明すればいいのかわからない。言葉を尽くして分かりあおうとするのは、もしかしたら愚かなことかもしれない。でもほかに心をつなげる方法がわからない。赤ん坊だった娘を抱いている時だけはすこし違った。娘の膝がまるく照らされて、箱庭のように光っているのを撫でてるだけでよかった。あそこにはまだ言葉がなかったから、とてもよかった。

でも私たちはみんなここに生きてしまったから、嘘から世界を見つけなければならないと思う。
娘がこのところわたしに呪いをかけるのだ。「ねーままぜったいにしなないでね。」「まま、はながしんでもぜったいにわすれないでね。」「まま、はながしぬまでしなないでね。」
わたしはいちいち、うんわかったと応える。



散文(批評随筆小説等) メモ Copyright はるな 2020-06-12 16:12:31
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