オリーブ
1486 106

テーブルの上に並べられたディナーを
ナイフとフォークで切り分けていく
音は立てない クロスは汚さない
躾けられた習慣は簡単には抜けないね

足しげく通った放課後の図書室で
難しい言葉をいくつも覚えたけれど
マティーニの味とメンソールの煙は
年を重ねても理解できそうにないね

読み進めていた本に栞を挟んだ
ソールを脱ぎ捨てて波を蹴った
長い雨の降り続く季節を乗り越えて
ようやくあたしは本当の夏を知る

イメージの翼で窓枠を飛び出した
オリーブの生い茂る丘を目指して
生きていく全ては手に入らないけど
ロザリオを握り締め祈ったりしない

手品師の要領で並び替えたアルファベット
特別な意味を持ち誰かに届くよいつの日か
希望も理想もない世界は健全じゃない
信じる力が悲劇を喜劇に変えていく

男の人には力では敵わないからと
武器を持ち替えて知識を盾とした
栄冠を誰かに明け渡そうとする時
ようやくあたしは本当の強さを知る

収穫の季節まで小さく揺れながら
太陽の光を目いっぱい身に受けて
生きていく全ては手に入らなくても
コイントスに運命を委ねたりしない

広場に群がる人々と掲げられた万国旗
音楽を杯に宴は続くよいつまでも
勝利も敗北もない世界は絵空事じゃない
信じる力で創話を実話に変えていく

清書した文章を読み返していくほどに
完璧とは程遠い自分自身を思い知る
残るものが残したいものであるよう
何度でもあたしは筆を走らせる


自由詩 オリーブ Copyright 1486 106 2020-06-06 19:19:31
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