あなたがわたしの近くや遠くにいる (長いので途中からでも途中でやめてもOKで...
ふるる

あなたがわたしの近くや遠くにいる
騒がしいので目を塞いでいた、
この暗くて曖昧な場所に
午後の日差しがようやく届き始める
長い時間がかかって
忘れ物はないかとポケットを確かめる
駅の時刻表には時間ではないものが書いてあり
じっと見ているとそれが感じられる
あなたが近くにいる

砂漠の終わりであなたが言った言葉
遠くにいてもきっと分かるだろう
ぼくらは、、、
砂が幾重にもわたしたちを包み、隔て、
閉じた目をひらいた時にはもう
駅が来ていて、わたしははじまっていて、
あなたは遠くに連れ去られて、自ら連れていかれて、
わたしは駅で買った飲み物を置いてきてしまったのだけれども
きっとまだあそこにあるのでしょう、
さようならは言えなかった
言わなかった
今度、、、
と言ったきり時刻表を見つめた横顔がきれいだった
寂しい翳にふちどられて
橋が見えるよとあなたは言いました
離ればなれの陸をつなぐ橋
橋があるから手を繋いでいるみたいに見える
陸を隔てる海は世界中に広がっているけれども
小さな橋があるから
あなたが近いと感じられた
波がもし橋を掴んでさらっていっても
あの小さな橋がと指さした手や懐かしい声はそのままで
眺めた、あの午後の日差しがようやく届きはじめる
髪に
冷たい指を差し込んで
もうしばらくこうしていようか
歩きながら話そうか
お互い目を合わせずに手をつないで
あなたはわたしの近くや遠くにいて
見守ったりそっけなくなったりする
わたしの駅がまたやってきて
あなたの橋を遠ざけようとする
河原でこちどりを見つけたの
小さな卵を守っていた
一生懸命に
読もうと思って持ってきた本なのにあなたは
表紙の絵のことばかり気にしていた
心配になる
そんな表紙のついた本なんて読んで
なにか責める気持ちがあったのかも
非が非でないことが嫌なのかも
グラスに水を入れて持ってきてくれましたね
美味しい水でした、
あなたがくんでくれたから
水を通した光が天井で揺れ
あの砂漠の風景が今でもここにあって
際限なく渇いていたわたしとあなたがいた
電車の窓から
飛べたらどんなにいいかと手を離した
もう遅い、とあなたは言うのでした
遅いから眠った方がいいと
わたしはこちどりの心配を
あなたは本の表紙の心配をしながら眠りに落ちました。
朝に起こしてくれる鳥はいなくなり
わたしたちを起こそうとゆするのは列車のベル
座席は暖かく
鼓動に近いから眠ってしまうんだと
優しくゆすられて多分もう眠い
途方もない力がわたしたちを生かそうとしまた奪い
なすすべはなく
ほおずきのように朱色の夕陽を全ての窓に四角く入れて
あなたを乗せ
わたしを降ろし
ここだ
雪のせいでおかしな場所で停まっている
雪に抱かれた光る細長い箱
静かで外も暗く冷えて
まだ、動く気配はない
雪の匂いのせいで眠れもしない
虚無の指先のような匂い
手を繋ぐことで約束したような気持ちになった
言葉では表すことのできない約束をした
よいものをあげよう
渇いた喉を潤すものをきっと
それが何か今となってはわからない
ずいぶんと待ちました
遅くなってすまなかった
いつも遅れてしまうのは橋があるからだ
渡るときは身体が浮いているので
いつもおぼつかない
目覚めと夢の間を渡るときもそんなふう
夢で見る君はいつも微笑んでいる
こちらは見ないで
君が僕の近くや遠くにいる
想像もできなかった、窓におでこをくっつけて外を見ていた君
怒った顔で許していた君が
忘れていく、約束を
指の暖かさが遠くに、時刻表は白くほころびなら消えて
もうすぐ、やわらかな季節がくれば
惑わず話せる日が来るのかもしれない
今はまだ雪に抱かれた明るい箱は
儚いものを積もるままにしていて
やがてはうずもれるその前に
手紙を書いてみたいけれど
封筒も便箋も切手も捨ててきてしまった
それがあなたの落とし物なの
捨てたものを落とし物とは言わないよ
それは丁寧にしるされた楽譜でもあるの
いまだ爪弾かれることのないかすかな旋律
かすれている音譜のひとつひとつが
鼓動に似ているのでみんな眠りについてしまう
あの人たちは追いかけるとか追いつくなどと言ってはぐるぐると回っているのに気がついていない
五度ずつあげていくと輪ができるのでしょう
わたしはこの音を担当しましょう
何を奏でているのかは決してわからないけれど
素敵な旋律に出会ったあの時に
君の耳は花開いた
もう少し眠ったら重たい身体を起こして
手の上に芽吹く物を眺めましょう
緑は揺れて
懐かしいリズムに記憶が乗っかっている
おんぶされたり抱っこされたり
あしたはどこいくの
明日、は明るいいい響き
磨いた窓の明るい
特別な予感を許された日
今日を供物として捧げたからもう大丈夫
いつかよみがえるから
身体の細胞は死に生まれ続けているのに
わたしたちは変わらず同じところを回って探し続ける
お互いを、あるいは違う人を
今日が明日を両腕で迎え
あとは忘れてと振り返らない
駅があなたを迎えに来て
さらわれていく、あなたは自ら
フードで顔を隠し白いマスクもつけて
誰だかわからないようにしてしまっているあなたは
わたしでもあるし知らない誰かでもある
そんなふうに言葉少なで

あなたなの?
君こそ顔を隠している
騒がしいので目を閉じた
このまま何も持たずに列車に揺られていこうとしても
降りていく人が置いていってしまう
花や石、本や時刻表、黒いかばん、そして
手紙
よく見せて
封をしていない手紙をあけると
言葉がこぼれる
硝子の山、金の靴、銀の竪琴、ミルクの川、、、
お伽噺のお姫様が竜をねだるので
王子様が旅に出る話
それは手紙でしょうか
紺色のインクが迷ったりにじんだりするのではらはらする
遠くの国の父から子への物語
様々な願いが便箋を埋めるけれど
子どもはおもてに遊びに行ったまま大人になり
ぼんやりとした父と手を繋いで橋を渡る
ミルクの川と父がつぶやいて
そんな手紙もあったよね
幼い自分が父と自分のあいだを走りまわり風がよぎる
ぼくは子どもを持てなかった
大したことじゃないとかつての父が笑う
見えているものにこだわることはない
見えていないものをどうやって見るの
硝子の山、金の靴、銀の竪琴
そういえば、時刻表の時間も見えなかった
かわりにあったのはきみの横顔
ぼんやりとして
大きな木の根本にタイムカプセルを埋めてそのまま忘れた
未来への手紙は光で綴られて眠る
水族館という文字だけ読める
水族館は好き
暗くて静かだから
海はそんなふうかな
海底では沢山の白いものが沈んでいくというよ
列車を閉じ込めた雪のように
可愛そうな虫たちを隠す落ち葉のように
ひとところにはおさまっていない魚たち
自由がある
とじこもった中にだって
内側の硝子を厚くして
外はにじんだ風景
水槽の中で手紙を書き続けている
紺色のインクで
降りしきるものの中で
きしむような声が喉から逃げる
そんな無口の悪癖や
クレーンの影が地面に落ちていること
冬の日暮れは早いよ
最後にかけだしたのはいつだろう
いつからか列車には飛び乗らなくなった
灰色の鳩がたくさんいる灰色のホーム
人を怖がらないのは忘れっぽいから
くりくりした黒い目で歩いている
扉が開くと
はっとするような色のスカートが
祭のリズムで揺れて
女性は花や羊みたいな服が着れるからいいね
ひらひらやもこもこ
すぐに列車の中へ吸い込まれてしまう
夢かと思ったんだ
そんな素敵な夢が降るのなら
長い夜も好きになれるのかも
僕は謝らないよ
君が望んだように言っただけだから
じっと手のひらに落ちるものを見つめていた
歌がきっかけで鮮やかに思い出す
色あせたと思ったのは気のせいで
きちんとしまわれ過ぎていていただけ
勝手なことばかり言う人だった
それでいて愛すべき明るさがあり
みんな笑いながら困っていた
測量の機械が足りなくても
精練な分度器と方位磁石があればいい
それでも肌身離さず持っているものはやはり
記憶
たまに取り出しては作りなおしてまた戸棚へ
奥には何がしまってあるのかきっともうわかんない
今度ちゃんと見てみよう
部屋が夕闇の青みがかった紫に染まり
海の底みたいにゆっくりと揺れた
プラムやマスカットをたたえた皿が出されて
水もたくさん
ここの水は飲める
僕らが満足できるようにと最大限の配慮がなされた
高い塔のてっぺんから見下ろす街は風で揺れていて
丘の上には無数の白く巨大な風車
一本は折れ曲がっていてそのまま
彼の最後の言葉はなんだっただろう
凧の糸のように釣り糸のように
確かな手応えが嬉しかったのに
急にぶらんとなった
古い公園のブランコに座ってぼんやりとなった
ふらここ、ふらここ、と君は繰り返したかわいい声で
きしんだ音があちこちから聞こえて
曇った空からは錆が降ってきた
シーソーもブランコも鉄棒も
遊んだ手のひらは鉄の匂いがしてくんくん嗅いでみた
剥がれかかった塗装を熱心に剥がしたり
どろだんごを何日もかけてぴかぴかに磨いたり崩したり
いい模様の石をたからものといって握りしめて帰る
多分タイムカプセルにいれたはず
あの石は普通の石じゃなかった
ほんとうに
小さくひび割れかけた石鹸で手を一人で洗う
まだ鉄の匂いがしている
見えないからといって
失われたとは思わないで
かつてあったものは
今もあなたの近くに
握りしめた手の形が覚えていた
今はもう本当に遠くなってしまった二人が
ふりかえる道は重く
こんなふうに同じところを回りながらも
昇ったり降りたりできるのは螺旋階段のしくみ
かりそめの繋がりでもあればいいのだと言う
想像もしていなかったことが次々と起こり
みんなはかわいそうだったけれど
耳をすませば
夜が溶けていく音が聞こえた
優しい音だった
雪が自らの重みでゆっくり落ちるような
いつもどうりで良かったのに怖がってしまった
私たちの微かな寝言はほとんど聞き取とれず
ぱらぱらと散らばって行ったけど
それでよかったのも
不安ばかりつのって身体は小さくなって
ハンカチに包まれるほど
紺色のハンカチには星たちが描かれていて
顔に乗せれば宇宙に浮かぶ
冷たいほうき星や赤く燃える星
垂直に落ちる銀河
一つ一つに緑の森やまばゆい湖があってほしい
小さな花もあったら見たい
深海魚みたいな宇宙船の中で
涙は熱いと知ったのはいつだった
ぼやけた瞳で見るのは苦しかった
だろう
君を泣かせたのがまさかぼくだなんて
後で叱っておく
ほんとうにひどいやつだ
君を置いていくなんて
ほんとうに
散らばった不安はみんな集めて持っていってあげる
それが約束だったのだ
生まれてくるはずだった妹や弟がぼくらを罵りに手を繋いでやって来る
あるいは嗤うために
それから救うために
負けないで
でも勝つ必要もない
冷えた地面に触れている手のひら
脈打っているのはどちらだろう
いつ終わるとも知れない生業の中で
存在を感じられる時がある
匂いや空気の動き
遠慮がちな音で
アクセサリーをそっと外す
眠るために
身体が沈んでゆく
頼りなくたゆたうのはいつものこと
あの可哀想な恐竜も眠ったのかな寒くてこんなふうに
目を閉じて
ここで
目を
閉じて
私が昔小さな動物だった頃
喜びという感情はまだなかったと思う
なんとなくあたたかい
この胸の当たりが
そうやって手を当てているうちに
いていいのだと分かった



そして
午後の日差しがようやく届き始める
とても

長い時間がかかった









自由詩 あなたがわたしの近くや遠くにいる (長いので途中からでも途中でやめてもOKで... Copyright ふるる 2020-04-14 00:40:43
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