メモ
はるな


風船をもったむすめがわあわあ泣く。
さまざまな色の細長い風船を、ねじったり束ねたりしてつくられていく傘や動物や花束。(空気を包んだゴムたちの)。
娘がつくってもらったのは大きな傘で、柄の部分はピンクと赤の風船三本からなっていて、さらにそこに顔のついた風船がくっついている(意味がわかりますか?)。複雑にねじれてまとまった傘の右端から空気が抜けたと思えば左端からねじれがほどけていき、直そうと触ると上のほうでぎちぎち不穏な音がする。
もうこれはすてるよ。ふうせんが壊れるからすてるよ。と泣くむすめにうんざりした夫が、じゃあおれが捨ててくるから寄越せと言えば、さわらないで、こわれちゃうから!とまた泣き、そんなら自分で捨てるまでしっかり持ってなさいとわたしが諭すとまた嗚咽する。こんなのほんとにだいじなのにすてるよ。
と言うむすめの心持ちが、わたしにはよくわかる。そうして、夫には心底理解できないのらしいだった。

このところむすめのつく嘘はいろいろになってきた。わたあめみたいに大きくてぼんわりしたのから、つめたい石みたいにかたくて小さいのまである。たあいないのは可愛くて、かんたんに怒ることもできる。
かなしいのはいつも小さくて、どうしていいのかわからない。目をみないでつく嘘によってつもってく砂利みたいな心地悪さ、どうやったら洗えるだろう。
貝が砂を吐くために必要なうすい暗やみ、明るいだけで育てると花をつけない球根やさぼてんたち。

結局家まで持ち帰った傘の風船、泣き止んだむすめに、うすいカルピスを与える。





散文(批評随筆小説等) メモ Copyright はるな 2020-03-07 20:01:46
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