考えない足
為平 澪
初めて履いた運動靴で
私たちはどこへでも行けた
リュックサックを背負い水筒を持ち
少しのお金と自転車のペダルに乗せたその足で
行きたい所へとハンドルを切れた
時間は私たちの足の後から付いてきた
日時計だらけのデコボコ道を
どこまでも どこまでも
白い運動靴が汚れてきた頃
黒くい靴を履かなければ 行けない所が増えた
手首に巻かれていたのは 手錠のような時計
自転車は納屋の奥で錆びついた
ハンドルは固定されてタイヤは罅割れ
ペダルはもう、回らなかった
今、私は町の停留所で捨てられた牛になって
飼い主が迎えに来てくれそうな車を待つ
草臥れた運動靴を蹄に被せ
定刻通りに来る運転手のバスに乗せられて
この町を周り続ける
バスは決まった方角へと進み
市役所と病院を通過して
同じ場所で私を降ろす
(便利になったもんだ
(バスの時間に間に合わない者は
(買い物も治療も手続き事もできないのだから
小さな押し車に頼る老人と
杖を突く老女が そう呟いて降車した
バスに揺られ 自分の足も動かさないまま
私は町を何周しながら死んでいくのだろう
【便利になったのだ】
ペダルを漕ぐ白い運動靴の足たちが
時間を逆走して
バスの中の私を追い越していく