ハローワークにて
こたきひろし

定年を理由に整理解雇されてから失業者になった
無職という存在になってから
十ヶ月近く無為に過ごしてしまった


その間社会から必要とされない人間になってしまったという思いに苛まれた

月に二回はハローワークに出掛けた
失業保険受給の為に就職活動の実績をつくらくてはならなかったから

けれど定年失業者に就職先など皆無に近かった
そのせいか窓口の相談員に熱意は感じられなかった

素っ気なかった
相談員は大半が中年の女性だった
私の年齢を知ると
それに見合う募集案件はよくて一つか二つくらいしかなく、それも短時間で低時給だった

「検討してみます」
と言って私は実績の判子を貰い席をたった
定年失業者には緩い対応なのだ

無職になってからスマホのネットに嵌まった
短歌の掲示板に歌を投稿するようになった

新聞の歌壇にも投稿しだして
幾つか入選しすっかり短歌の沼に足が浸かった

それで姉に
「新聞に載ったよ」
って電話したら
「お前なんか悪い事でもしたのか?」
と心配された
「Y新聞の歌壇欄に俺の短歌が載ったんだよ」
って説明したら
「Y新聞ならうちも取ってるけど気がつかなかったわ」と言われた
「お前短歌なんかやってたの?」
「始めたばかりだけどさ」
と答えると
「後で見てみるわ」
と言われてその話は終わった

思ったほど感激は感じられなかった
そんなものかと落胆した

それは何となく自慰行為に等しいものを感じた
自慰行為の後の空しさのような

六十一歳で私は今の職についた
運よくハローワークで熱意ある相談員と出会ったからだ
いつにはない対応によって私はフルタイムの職を紹介された
年齢を聞いて面接を渋る相手先にプッシュしてくれたのだ
「会うだけ会って見ます」
の承諾を貰えたのだ

それが縁で採用された
採用されなければ
今頃は奈落の底に堕ちていたに違いない

残念ながらそこに短歌なんて
何の役目も果たしていない
無意味な存在だった


自由詩 ハローワークにて Copyright こたきひろし 2020-02-15 01:18:06
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