イチモンジセセリ(百蟲譜10)
佐々宝砂

昼休みの中学校の教室に
セセリの群れが舞いこんできたことがある。
女の子たちは気持ち悪がって騒ぎ
男の子たちは争ってつかまえた。

鱗粉は毒だと言われていた。
茶色いし羽根の閉じ方が普通の蝶と違うから
蛾だと思われていた。
でもセセリは無毒だし蛾ではない。

イチモンジセセリ自身は
毒蛾と呼ばれても気にしないけれど。
あのころ私たちは誰もが不安を抱えた芋虫で
ありもしない毒で武装して

自分が蝶になるか蛾になるか
ただそればかりを気にかけていた。


(未完詩集『百蟲譜』より)


自由詩 イチモンジセセリ(百蟲譜10) Copyright 佐々宝砂 2003-11-21 23:43:44
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