こちらは閉じられ、あちらはよそを向いている
ホロウ・シカエルボク


たしかレイモンドとかいう
古臭いペンネームの小説家の女が
205の明かりを消したところで
向かいのマンションは奇跡的なビンゴゲームの
結果みたいに真っ暗になった
午前二時には珍しいことさ
この街じゃ天文学的な確率さ

さてきみは血生臭い
ドラマのシリーズに夢中になって
なかなかベッドに戻ってこない
おれは根負けして目を閉じる
部屋中のなにかが
おれがすっかり眠ってしまうのを待っている
時々そんな気がする
清潔な枕にうずくまっていると

モダンなブルースが流れてる
あれは確かエンディングテーマだ
いまならまだ間に合う
おれは身を起こして
超人のようにきみをしあわせに出来るだろう
でもきみは
これから歯を磨くらしい

おれは夢のなかで
その曲に合わせて下手なソロを弾いていた
十年も前に捨てたギターで
エリック・クラプトンに鼻で笑われながら


明日のことなんて誰にもわからない
ひとつだけ言えることは
少なくとも明日の午前中までは
おれはレイラを聴くことはないだろうってことぐらいしか


自由詩 こちらは閉じられ、あちらはよそを向いている Copyright ホロウ・シカエルボク 2020-01-31 23:29:08
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