点の誘い・線の思惑 三
ただのみきや

掌からすり抜ける水
砂の中の骨
早送りで咲いて散る花
骨に彫られた文字
一枚の夜の被い
火にくべられる絵画
壺の中の菓子
家から出ない女
表紙の千切れた古い詩集
頭を割られた男
鏡をよぎる蝶
遠国の短波ラジオ
干した無花果の甘味
ジンの瓶にさした綿の花
歪んだ指輪
眠れない夜の夢
乾いて往く湿地
奇妙な鳥の影
隣家のドアの開閉音
手に握られた眼球
濛々とした光
古いカレンダーの印し
割れたままの窓
時に置き去りにされた時計
白紙が残った古いノート
そぞろめく文字たち
殺人的過去
ロマンスの拷問
海水の味がした
女の顔への光線の過剰
ミックスビーンズとツナ
遠く響く破裂音
永遠の昼
瞬間の記憶
被膜の中の太陽
打ち上げられた海獣
見放した空の深み
腐臭に群れる文字たち
閉じて往く月
振り向いて笑う老人
断絶を繰り返す河
二度と同じではない顔
岩塩とライム
遭難者の末裔



           《2020年1月26日》







自由詩 点の誘い・線の思惑 三 Copyright ただのみきや 2020-01-26 15:20:42
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