Eat The Rich
ホロウ・シカエルボク


時間を掛けて、俺はそれを解体する、もう暴れることはない、俺に手を掛けさせることは…もともと、そんなにたいした手間じゃなかった、背後から延髄に一撃、それだけでよかった、意識のないままの悪あがきが、数秒続いただけだった、キツ過ぎる香水の香り…それが俺の殺意を果てしなく呼び覚ました、俺は多段式の警棒をコートに隠している、世間は物騒だからね…それに、そうした備えがないと、今日みたいな衝動を持て余してしまって、困るだろ…死体をバラすのは難しいって、皆言う、俺にはそれがなぜなのかわからない…多分皆動揺しちまって、なんとかしなくちゃってオロオロしながら始めるから、だらしない結果に終わってしまうんだ―そういう目的があるなら、内庭のある家を選ぶべきだ…、ほら、ホテルなんかであるだろう、壁に囲まれた小さな庭さ…枯れた池なんかあるとさらにいい―俺は運よくそうした家を手に入れることが出来た、一階が料亭だった、四階建ての小さなビルだ―魚を泳がしていただろう巨大な水槽は思いのほか役に立った…とにかくそういうことさ、外で怪しまれることさえしなければ面倒なことにはまずならない、俺はちょっとしたツテを使って、ここを中心とした半径数キロ内の監視カメラの位置はすべて把握している、まったく、やりにくい時代になったもんだよな…昔はこんな苦労しなくてもよかった、古い映画みたいに、言い伝えのせいにしたり、まったく関連のない別々の出来事のように細工することが出来た、隠すのだってそんなに難しいことじゃなかった、大規模なマンションのごみ捨場とかさ…鍵がないところがたくさんあったから…まあ、いろいろなことが難しくなったってこと、それでも、俺は運が良かった、もちろん、すべてのプロセスを完璧にこなす力もあった、だから今もこうして、少しずつ楽しむことが出来る…少し刃の長い、短い日本刀みたいなシルエットのナイフを使う、それを、力を使わずにゆっくりと骨と肉の隙間に差し込むといい、紙束の中に一枚、薄いアルミ板を差し込むときのような興奮がある、もちろん、それはきちんと、過敏なくらいに手入れされていなければならない、そして、カッターでスチロールを切る時みたいな感じで―動かす、すると、ふわっと肉体が骨から浮き上がる、チキン食べたことあるだろ?骨にくっついてるやつを、噛み千切ったときのこと、思い出せるかい―俺はよく思い出すよ、これをやってるときは…必ず一度はね―ヤバいコミックなんかじゃ、人間の内側って真っ赤っかにするだろ―実際はあんな感じでもないぜ、もちろん、おおまかにはあれでいいんだけどね…肉体の内側って、結構いろんな色で構成されてるもんなんだ、思ってるよりよっぽどカラフルだぜ、いや、インスタ映えとかはしないけどね…仮にしたところで、載せるわけにもいかないけどな―切り離した肉は細かく捌いて、タッパーや密閉ビニールに入れて保存しておく…すぐに使うものは冷蔵へ、余りそうな分は冷凍へ―冷凍は放置されていた業務用のやつを自分で直して使っている、よく冷えるから長いこと保存できる…まあ、食材にするのはそれが一番理にかなってるからさ…取り立てて美味いというものでもないよ、ああ、動物の肉だなって、そんなもんだよ…新鮮さっていう点で言えば、マーケットで買ってきたものとかよりずっと上だけどね―俺はいつもそれをするとき、ドンヘンリーのアルバムを流しながらするんだ、いや、特別好きってわけじゃないんだけど…なんかしっくりくるんだよな―ほら、妙にコンテンポラリーな、ポップなアルバムがあるじゃないか、あれだよ、あれじゃないと駄目なんだ…骨は工事用のハンマーで砕く、バイブレーターとか電動ドリルとか使えばもっと楽だろうけど、ものすごく大きな音がするからね…しょっちゅうそんな音を立ててたら、詮索好きな年寄りとかの格好の餌食になっちまう、俺は下品じゃないご近所さんになんて、会ったことがないよ…まあ、そんな話はいいとして…これが終わったら晩飯を食うとするかな、俺はパスタを作るのが好きなんだ、それにね、オリーブオイルが一番合うんだよ、この肉はさ…。



自由詩 Eat The Rich Copyright ホロウ・シカエルボク 2020-01-19 22:00:24
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