点の誘い・線の思惑 一
ただのみきや


梢に残された枯葉一枚
干乾びた想いの欠片
命はすでに記憶もない

生者の心は生乾き
過去と重ねて今を見る
いっそ綺麗に散ったなら


鴉が乗ると電線がゆれた
墨で描いた濃淡
蕾一つが殊更に

競うか戯れるか
風の合図に黒い花
ふたつ開いて弧をすべる



燐寸人

ひとつの蕾の中で
全てが整い満ちて
戸惑いつつおのずから
世界に向かってゆっくりと
奥ゆかしくも
誇らしげに開き
強い香りを放つ

――やがて
艶やかな花弁は萎れ
色を濁し香りも絶え
重さを失くしながら
声もなく散って往く

そんな意識の移ろいを
再び得ようと

燐寸を擦る
燃え上り燃え落ちる間
夢を見ることも叶わずに
白い煙の往く様を
空っぽのまま見つめている
餓えが目を醒ますまで

記憶の中の幸福は
行為では再現できない
永遠の面影
もはや彼岸だ



けれど、わたしは

醜男ナルキッソス
水鏡に映った真逆の姿に恋をした
彼女を抱かんと
深みへ潜ってそれっきり
彼を愛する者などいやしない
エコーはナルキッソスが書いた詩
遺書みたいに残っている



            《2020年1月12日》









自由詩 点の誘い・線の思惑 一 Copyright ただのみきや 2020-01-12 14:19:53
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