あけみ
いとう

他の女と遊んでるとすぐに怒って
そのくせ
中指を突っ込んでやると
悲しそうな声をあげながら
すぐに抱きついてきた
寄ってくる女を全部食ってた頃の話
たぶん好きじゃなかったと思う

包丁を持って迫ってきた時も
まるでTVドラマのようで
思わず笑いそうになった
刺されてもいいな
そういうのもアリだなと放っておいたら
何もせずに泣き崩れた
それで終わり
喧嘩にもならなかった
何を求めていたんだろう?
何かを求めていたのは確かだけれど
それは人に与えられるものではなかったはず

「誰のせいでもないのよ」が口癖で
そう言いながら安定剤を噛み砕く
ベッドの中で一度だけ
寝た振りをしている僕の耳もとで
「本当はあなたのせい」と呟いた
泣く資格がないのは知っていたけど
一人になってから泣いた
泣いている自分に驚いた
何かが怖かったんだと思う
今では少しわかる

最期はあっけない
予兆もなくビルから飛び下りて死んだ
自殺だった
僕は現場近くの交差点まで行って
それ以上一歩も動けなかった
僕が殺した
でも泣かなかった
結局彼女のために一度も泣かなかった
自分のために泣いたことはあったけれど
その涙は彼女に届かない





未詩・独白 あけみ Copyright いとう 2005-04-08 17:44:31
notebook Home 戻る