風が吹けば人の目には涙が
こたきひろし

少年
彼はウヨクである筈がない
暴走するバイクの後ろにこの国の旗をバタバタさせたに過ぎない

青年
彼はサヨクである筈がない
ただ単純に労働者の要求として賃金値上げの運動に名前を並べたに過ぎない

壮年
彼はミギもヒダリもどっちでもよくなった
にんげん 真ん中もありだと気づいてしまった
のだ

晩年
彼はミギもヒダリも理解できなくなった
施設の寝台の上で虚ろに天界を眺めていたに過ぎない

 しきりに名を呼ぶ声がした
 懐かしい声音だった
 亡き人の呼ぶ声だった

 母さん 母さん 母さん
 何でそんなところから我が子の名前を呼ぶんだよ
 母さん 母さん 母さん
 幾ら呼ばれても俺は母さんの側には逝きたくない

 どんなに体が弱っても
 どんなに意識が阿呆になっても
 死ぬのはおっかない
 死ぬのはおっかないんだよ


自由詩 風が吹けば人の目には涙が Copyright こたきひろし 2019-12-28 00:17:02
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