云い放つ、『良い人なんて、大嫌いっ!』
秋葉竹


そのお嬢様は、人を信じることができなくて
そのお嬢様は、『いい人』のことが大嫌いだった。

いい人が、いいおこないをするのには
なにか理由があるんだと知っていたので
いい人を尊敬したりしなかった。

ほんとうにいい人は
いい人だと気づかれない人だと
なぜか知っていたので、
ほんとうにいい人
(実はいい人にみえない変わり者)
のことは実は大好きだった。

けれど、今まで
出会ったことは、
ただの一度しかなかった。

それが、
だから、
このお嬢様の、
初恋だったのかも
しれなかった。


そして、逢えず、
月日が流れた
気がつくと彼女は
純白のけものと化していた。

だから、
ある日、
それまで全く無関係だった一匹のけものが
あの歌を聴いた、
というのは、
彼女の
初恋の人の《こころ》を
聴いたということ。

だから、その切れ切れの歌たちは、
嘘みたいな純情を胸に飼って、
けれどけっして『いい人』とは思われない
彼女の夜の秘かな楽しみとなった。

純白のけもの?

『いい人』ではない、彼女?

そう、それは、わたし。

この心の残欠をさがして
生きてゆくことを誓ったおんな。

残欠、それは、あなた。

ゆえに、救われない、わたし。



ねぇ?
ぜつぼうって、みたことある?

いつも目の前にそびえ立つ
ぬりかべみたいなやつ、
それの名前を
《ぜつぼう》っていうんだって
思い知らされた夜のこと。

二度と逢えないわけではないから
振り返らないで
わたし、前だけみすえて
けっして退かない、夜の歩調で歩くよ
少しいかがわしかったら、ごめんなさい、ね?

いずれたどり着ける
そこだけは穢れのない
湖を目指しては、いるの、だから、ね?







自由詩 云い放つ、『良い人なんて、大嫌いっ!』 Copyright 秋葉竹 2019-12-21 19:33:37
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