行進
たもつ

 
 
デモ隊が行進をしている
何を言っているかわからないけれど
行進している
プラカードのようなものも持っている
何て書いてあるかわからないけれど
持っている
先頭が角を曲がる
何の角かわからないけれど
角を曲がっている
もう一度よく見る
あれは何の角なのだろう
よく考えても角だ
曲がっている
最後尾が角を曲がり終えると
また別の角から先頭が顔を出す
あれは何の顔なんだろう
よくわからないけれど
よくわからない角から出てきて
また別の角を目指して行進を続ける
行進している人からプラカードを渡される
プラカードを持って僕も行進に加わる
何の角かわからない角を曲がり
何の角だかわからない角から出てくる
むかし一緒に住んでいた僕の好きだった人は
毎日、夕食の献立のことばかり考えていた
お別れの日、彼女は角を曲がり
二度とは出てこなかった
それなのに僕は角を曲がり
また角から出てくる
何度角を曲がっても僕は僕に帰ってくる
もうこんな生活は嫌だ!
僕が帰る場所が僕であってはならない!
一人だけのシュプレヒコールをあげる
ご飯、豆腐の味噌汁、魚の煮付け、きんぴらごぼう
気がつけば高らかに
今夜の夕食の献立を叫びながら
僕が新しい角に吸い込まれていく
 


 


自由詩 行進 Copyright たもつ 2019-12-20 12:29:47
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