そしてがらんとした部屋のなかだけが
ホロウ・シカエルボク


きみはうす汚れた扉にもたれるのをやめて
新しいにおいのする通りのほうへと急いだ
おれは正体の知れないジレンマにすこしとまどったあと
洗面台で昨日の夢をようやく洗い落とした


冬の街は過度に繊細な佇まいで
窓には結晶がはりついていた
耳がきいんとするノイズは
きっとこいつがひとしれず立てる鳴声なのだ


きっと今夜から子守歌は行方不明
インスタントコーヒーはより消費される
ラジオは昔の詩ばかり流して
なのに歌詞は明日のことばかり


いまわしい過去は
鶏の首をひねるみたいに殺されるべきだ
きみにはわかるだろう、いや
おれよりもずっとよくそのことがわかっているはずだ


その日最初の
かんたんな食事をしながら
おれは時の隙間におきざりになった
そしてむかいのビルの窓で反射する太陽を見ていた


昼過ぎになって
まぶしくなくなるまで
なにを見つめていたのか
思い出せなくなるまで


自由詩 そしてがらんとした部屋のなかだけが Copyright ホロウ・シカエルボク 2019-12-13 22:20:30
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