脳内の積み木が崩れていく過程には
こたきひろし

彼はアナログの世界に産まれた
自我に目覚めて初めて眠りから冷めた朝のこと

家のなかはがらんとして静まりかえっていた
人は誰もいなくて 気配さえ感じられなかった

まだ幼い彼は泣き出した
声を限りに
すると鳴った
それが時計だと言う認識は
勿論
彼にはなかった

時計と言うキカイが
その家の漆黒の柱にかかっていたのだ

物心が付くと
付かないでは
無限大の差が開いてるに違いない

火がついたみたいな泣き声に
この世界の何処からともなく女がよってきた

女は彼を
この世界に力んで産み落とした
唯一無二の存在だった

母親は
寝ていた我が子を抱き上げて
あやしだした

その時
母親の乳房は温もっていた

その時彼には
母親そのものが
アナログの
産物だったのだ

遥か遥か
遠い過去の記憶のなかで

人として
産まれた最初の記憶の力によって
朧気に思い出した


自由詩 脳内の積み木が崩れていく過程には Copyright こたきひろし 2019-12-08 09:05:48
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