稚内
たもつ

 
 
千葉駅から外房線に乗り南下して
稚内に向かう
どんなに行っても沿線に稚内はない
外房とはそういうところ
風が吹いている

都会なのに美しいジャングルがある
それが稚内
珍しい、と思われる獣がいる
美しい、と評判の鳥がいる
おそらく虫の類もいるだろう
都会だから毎日のように
事件・事故があり人々が巻き込まれ
同様に他の生き物も巻き込まれる
空が青い
それが稚内
オンリー稚内

淋しさについて語れば
寂しさから遠ざかっていく身体たち
たどり着く先は稚内
外房線の沿線に稚内などあるはずがないのに
茂原あたりから
もしかしたらこのまま稚内に着かないのでは
と思い始め
本当にたどり着かない
一事が万事
バンジージャンプもある
妻はバンジージャンプはしない
高所恐怖症だから

 妻は台所から出ようとしない
 台所には高いところがないから
 可愛いそうな妻はこれからもずっと
 呼吸も
 深呼吸も
 台所でし続けなければならない
 そっと稚内からバンジージャンプを撤去する
 違う
 本当に大切なのはそんなことじゃない

稚内に雪が降る
ジャングルにもやがて降り積もるだろう
生きているものは皆寒い思いをするだろう
妻を怖がらせないように
外房線は低く低く進む
稚内にたどり着かないまま
外房線は安房鴨川で折り返すと
稚内を目指して再び千葉へ向かう
車内はそんな乗客で溢れかえっている
いくら勝浦があっても足りない
足りないものを埋めようとして
自分が埋まっていく
ありとあらゆる自分が埋まっていく
 
 


自由詩 稚内 Copyright たもつ 2019-12-05 07:27:57
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