宿題はランドセルのなかに
こたきひろし

鎖に繋がれたオスの犬
どこからかあらわれたメスの犬

二匹は発情していた

日は山の向こう側に沈んで
家もその周辺も黄昏ていた

小学校の終わる頃だったか
中学校に入った頃だったか
覚えていない

家の外が騒がしくなった
子供らの声と犬の鳴き声が聞こえてきた

宿題途中の俺は駆け出して外に見に行こうとした
母親が止めた
お前は見るなと怒ってた
何でだよ

お前は子供だから
見てはいけない

なに言ってるんだよお母ちゃん
他所の子供らの声が聞こえるじゃないか

俺だって見たいよ
母親の制止をふりきって
外に出た

我が家の愛犬ジョンと知らないメスの犬とが交尾していた
それを他所の子供らが囲んで見ながら騒いでいた

母親が駆け寄ってきて
俺の両目を両手でふさいだ

離せよお母ちゃん
もう遅いよ、こんなの普通だよ

俺は知ってるよ
お母ちゃんとお父ちゃんも同じ事してるの

言ったら途端に
母親は力を抜いて
手を離した

驚いて
俺はお母ちゃんを見た
その時の悲しげな顔と悲しそうな眼が
俺の心臓に刺さってしまった

あれからながい歳月が経ったのに
あの日の宿題は
未だに片付いていない

のは
なぜ





自由詩 宿題はランドセルのなかに Copyright こたきひろし 2019-11-26 07:17:26
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