霧雨のなかの幽霊は
おぼろん

が、
歩いてゆく。
こんな靄った空の下でも。

愛していたのだろうか、

幽霊が、
傘もささずに歩いてゆく。
もちろん、傘なんてさせるはずもない。

が、
愛していたのだろうか。
愛が形にしたのだと、
今は信じても良い気がする。

”今日日は電線に雀も止まってはおらぬ”

そう、電線に雀も止まってはおらぬ。

が、
愛していたのだろう、きっと。
だから、傘もささずに歩いてゆくのだろう。

”電車になんて乗らないね、きっと”

そう、電車になんて乗らない。

その幽霊の呪いを解く呪文はね……?
ああ、
呪いを解かれることを望んでいるだろうか、
傘もささない幽霊は。

……

”もちろん、傘なんてさせるはずもない”

誰かが一杯のコーヒーを飲んでいるとき、
そこにも、
かしこにも、
見えない輩がいると、

誰かが気づいている。
誰もが気づいている。
だから、誰も止めようとはしないのだ、

皆、気づいている。

歩いてゆく幽霊のことを、
傘もささない幽霊のことを、

希望とか、不幸とか、そんなものを仮託されることも拒絶して、

ただ、歩いて行く……。

霧雨のなかの幽霊は、
ほんとうにとおいところへと。


自由詩 霧雨のなかの幽霊は Copyright おぼろん 2019-11-24 22:15:39
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