限りなく光速に近い静止
紫音

真っ暗な閉め切った部屋の片隅で白と黒が無秩序に演出する光と闇のコントラストから流れ出す無機質なメロディーが思考を止めたボクの中のレプリカントを愛撫しながらこの狭い小宇宙に光速で進む世界を外から見つめるようにスローモーションなコマ送りの空気を生み出し続ける時にチクタクと規則正しい音を刻みながら誰も見ていない針を律儀に進める時計台のある駅のホームで誰を待つでもなく立ちつくすキミが着る真っ白なトレンチコートの裾からほつれた糸の先にヒラヒラと舞い踊る琥珀色の燐粉を纏った蝶が見る暗闇に消える線路の先にある谷間を見えないはずの幻を浮かびあがらせる月光の淡い乳白色のカーテンが夜明けを遮る景色を切り取った写真に写るシルエットだけになった古木から伸びる影に消された記憶の断片をあるはずのない機械のメモリーにバックアップを取り全てを消去してボクが消えてしまえるなら手のひらに乗るほど小さい小瓶から眩し過ぎる鮮やかな緑色をしたハーブの香りに包まれてこのモノトーンの三次元の中に異質なネオンとして残して置くことで無意味な秩序に異質の波紋を刻んで生の証にするのも悪くないかもしれないといつの間にか感傷が再起動してしまう哀しい勝手に流れる真っ赤な血潮と不規則な脈動を痕跡にして朝が来るのを待つでも望むでもなく迎えてしまうボクは死んでいるようで生きているようで今日も終わりいつの間にか眩くも居場所がない都会に沈んで埋もれて見分けがつかなくなっていく遺すことも語ることもなく空白の過去になるこの日常の透明感


自由詩 限りなく光速に近い静止 Copyright 紫音 2005-04-06 01:26:00
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