沈黙
山人


山道の石の沈黙を見たことがあるだろうか
ぎらついた欲もなく、うたう術も持たず
息を吐くこともない
おそろしいほどの年月を沈黙で費やしてきたのだ

いっとき降りやんだ雨と
鈍痛のような、まだ明けない朝の重みが
うしなわれた心臓のような沈黙を保っている

未来が遠すぎてどうにもならなかった男の朝に
つつまれるのは確かな沈黙だ
右往左往するひずみを超えたそこにあるのは
動くことも忘れた
沈黙だった

うしなった唇の向こうに見えるものはなんだ
様々な音が狂おしく葉を撫でて
いたるところにばらまかれている
沈黙が
徐々にではあるが
空へと飛翔し始めていた


自由詩 沈黙 Copyright 山人 2019-10-27 06:12:25
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