何も送らない日
竜門勇気


今日帰ってくるのは
化け物だ
僕が知っているだれでもないし
だれが知っている存在でもない
乾電池を無数に並べて
その真ん中で丸めたティッシュを燃やす
ティッシュには膿の混じった血が乾いていて
どっちともつかない匂いの中で
まるで隠し事みたいな雰囲気が漂ってる

呪文。呪文をとなえなけりゃいけない
そんなもんは気休めなんだけど
そういうのがあるのが人生の満足ってもんだ
化け物を呼ぶのもそう
気休めがあっての人生だ

だれでも良かったなんて言ったら
きっと怒るよな
君に会いたくてこんな真似をしたのさ
なんて言わなきゃ帰っちまうだろう
乾電池が炎を囲んで脆い影を放つ
炎はぶすりぶすり小さな粒を散らして
黒い煙をあげる
黒い煙に炎の光が刺さる
葬儀のリボンが結ばれる

呪文。呪文。呪文。
あるならとなえなきゃいけない
何を呪うのか決めて
なんに呪われるのか決めてから
呪文。呪文。呪文。
糾えるモノシンフォニーの無数
たくさんの無意味な儀式に
どうやって呪われるのか決めながら


自由詩 何も送らない日 Copyright 竜門勇気 2019-09-27 22:57:52
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